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2012年11月

2012年11月18日 (日)

ツアー登山などの見極め

先日、クラブツーリズムのツアー登山のガイドをした時に、やまやの皆様に出したメールを下記に紹介します。ここで、ツアー登山の危険と見極めする基準が決まってくるように思われますので、皆様、是非ご一読いただけるとありがたく思います。また、一人でも多くの方から、コメントはメールでの返信などをいただきたいですね。

 

<以下、メール文>

 

11/1011までの2日間、私の自然の先生からのたっての願いで、クラブツーリズム(以下、クラツーと称する)のツアーガイドに行ってきました。

私は以前、ずっとツアーガイドをしていた関係上、ツアーガイドというものがどういうものか、添乗員との関係、判断はどちらがするのか?

ということは慣れていたのですが、久しぶりにやってみてどのような感想を持ったか・・?ということを、お話しします。

 

先日からマスコミの取材を受け、今まで何社か、旅行会社と契約し、その中でもアミューズトラベル(以下、アミューズに略す)に関しての業務内容などを思い出している内に、私がいままで言ってきたことや、やってきたことが間違いなかったこと、が確認できましたし、今回、二度とやらないと思っていたツアーガイドを体験して、改めて思ったことがあります。

 

それは、今回お客さんの人数が12名という人数に対し、ガイドと添乗員が2名ついたこと。その添乗員が山をしっかり把握し、全体を管理できる添乗員だったこと、山での判断を全てガイドに任せられたこと、で、このツアーにおける体制というのは、「登山をしても良いツアー」であったと判断します。それはクラツーがそうだと言っているのではありません。クラツーの中でも危険なものを感じる山行はいままでいくつも出会っていますし、アミューズの中でも、しっかりしたものを感じることはあります。特に最近のアミューズでは、トムラウシ以降において、危機意識や山岳気象に関しては、細心の注意を払い、実行してきた・・それ故に、お客さんも戻ってきた・・という話も聞いております。旅行会社が云々の問題ではないのです。その一つずつのツアーの内容なのです。それをきちんと管理できているかどうか・・です。その問題点を下記に記します。

 

問題は大きく分けて3つあります。

 

一つは、旅行会社自身の問題。私が勤務していたころのアミューズでは、全く話しにならないのですが、危機意識や、お客さんの安全を重視し、企画をしているか?きちんと当日行くガイドと相談して決めているか?その報酬をガイドに与えているか?ということがあります。

以前のアミューズの様に、2週間ほど前にどの山行にどのガイドが行くかを決める・・ということも論外です。

これができていなければ、まず第一段階として、失格です。

 

次に、現地での判断を誰に任せているか?という問題。これは、ガイドが山のことを一番良く知っているのですから、当然、山のことを知らない会社がとやかく言う問題ではないのです。ただ、その山域を知らない人間をガイドにすることは、全く持ってあり得ない話です。(トムラウシの時がそうでしたね)これは山岳ガイド協会の認定を受けていれば大丈夫・・という問題でもありません。認定ガイドでも山を知らないガイドはわんさといますので、その辺は、山岳ガイド協会の体面上、公にはきちんと言わないだけだと思います。登る山を知り、適切な判断をきちんとできるガイドを雇う、ということが一つの指標であり、ツアー登山の場合、旅行会社は、もし、仮に悪天候などで計画が遂行されなくてもガイドに対する報酬はきちんと支払うことを約束しなければなりません。また、ガイドも行けるか行けないかの判断もきちんとできる人でなくてはなりません。

 

次にお客さん側の問題です。これは必ずしもそうでなければ行けないということは無いのですが、上記の2つのことがお客さんがきちんと理解できているかどうか?旅行会社が主催する募集型の山行は、どういった方が来られるかわかりません。その方達がきちんと上記2つのルールと、行く山のことを把握できているか?山に入るためには、お客さん側にも「付いていったらそれでいい」というのではなく、そのスキルを身に付ける「責任」があると思います。そうではない方は、観光旅行に留めておいて欲しいのです。決して登山に手を出してはいけないと思います。

 

お客さん自身が、このツアーは大丈夫かどうか?どんなガイドが案内するのか?人数はきちんと安全が守られる人数か?ガイドの内、何人がその山を知っているのか?エスケープルートは確保されているか?ビバークや停滞するような事象が起きた時に、予備日はきちんと確保できているか?そのようなことをお客さん自身が判断し、考えるのです。

 

上記3つを、全ての山行で完璧にこなして、初めてその旅行会社は登山ツアーを組める・・そのような「法律」にも似た規制を作らなければ、まだまだ山岳遭難は増え続けると思います。東日本大震災の時にもお話しましたが、皆さんは常に危機意識を持ち、きちんと自分の身は自分で守る、ということをしなければ、何かが起こってからでは遅いのです。

 

旅行会社などのツアーに行っておられている方は、次のツアーは大丈夫ですか? 上記のようなことを考えておられていますか?遭難するのは、次はあなたかもしれないんですよ?

 

昨日の山行はクラツーの契約している山岳予報士に話しを聞くなど、天気に関しては、完璧なまでの解析をクラツー側はしておりました。

私もその天気情報を頼りに、前日に添乗ガイドと打ち合わせ。エスケープルートや、いつの時点でその判断をするか・・などの、細部にわたっての確認事項を入念にしました。いつもは、私一人だけでしていることですが、その辺はさすが大手の旅行会社です。どんどん情報は提供してくれます。

当初・・前日の夜ですが・・話を聞いた時点で、計画を変更しようと思いました。これは、東京のガイドが下見をしにきた・・ということで作り上げた計画だったのですが、(お客さんのレベルにもよりますが)「無理なんじゃないかな・・」と思った次第です。

 

昼過ぎにびわ湖バレイに着いて、そこからゴンドラで上がり、お弁当を食べた後、蓬莱山~小女郎ヶ池まで行き、引き返し、そこから金比羅峠経由で、歩いて下山、下のゴンドラ乗り場に帰る行程、これでは陽がくれる・・と思い、でもひょっとすると、お客さんがめっちゃ早く歩ける人かもしれない・・と思い、少し早めに歩き(早めといっても私がいつも先に歩いて、待っているくらいの歩調です)この歩調なら、その行程は大丈夫かもしれないと・・結果は、やはりブーイング!!早すぎる!というわけですね。そりゃそうでしょう、この行程で、陽が暮れる前に下山するには、これくらいの歩調で歩いても遅いかもしれない・・・蓬莱山頂で、事前に作っておいた私の2案を提唱、「このまま小女郎まで行って、帰りは下山道を使わず、ゴンドラで下りる」または「小女郎まで行かず、今からすぐに下山する」かどちらかに意見を聞き、決めました。小女郎まで行かず下山することに決まり、下山もゆっくりペースで歩き、ゴンドラに着いたら午後4時でした。小女郎まで行って下山道を使ったら間違いなくカンテラが必要となっていたでしょう。

 2日目は、当初の予定では、イン谷~大山口~ダケ道~北比良峠~イブルキのコバ~武奈ヶ岳~西南稜~御殿山~坊村のいわゆる、比良横断王道コースです。このコースは非常に一般的に見えて、実は登り返しのある非常にしんどいコースなのです。やまやでは、よく下山に使うコースですね。それを組んでいたものですから、初めからルートを変更、イン谷~青ガレ~金糞峠~奥深源流~コヤマノ中尾根~コヤマノ岳~武奈ヶ岳~西南稜~御殿山~坊村です。エスケープルートは、いくらでも取れる比較的安全なコースです。朝615分に近江舞子の宿を出発。イン谷から登りだしが、7時・・青ガレを雨が降る前に通過したかったのですが、うまくいきました。雨は朝の内はまだもつ・・ということでしたが、9時半くらいから本降りが続き、その後、ますます風雨はひどくなる・・ということです。で、結局、雨は金糞峠まで持ってくれました。嬉しい!ほぼ予定時間で、ここまで来れれば、後は危険箇所がそんなに無いから、何とかなると思い、奥深源流に下りたところで、ポツポツ来だす・・全員フル装備!という添乗員のかけ声で、全員着替え出す・・その前に私から、雨具を雨蓋に入れておくように指示しておいたのですが・・よしいいぞいいぞ、みんな着替えが早いぞ!スカっと着替えて、いざ、出発!コヤマノ中尾根の取り付き口が分からず、若者3人組が右往左往しています。その方に先を譲られてクラツー部隊出陣です。中腹まで来たときにここから先は分かるから・・と先に行ってもらいました。予想通り風雨が強くなり、でも樹林帯のコヤマノ岳はまだしのげます。また気温もそんなに下がらず、10度くらいはあったかも・・それで、風が風速20mくらい・・ばんばん吹いています。

 コヤマノ岳に着いた時に、武奈ヶ岳には行かないことを告げました。武奈ヶ岳は、笹原でここよりももっと強い風が吹いている。だから西南稜を歩かせることがとても危険・・という判断をしたことを告げました。

みんながどんな表情をするか・・楽しみでしたが・・「ここまで来て・・」と、文句を言う人は一人もいず、そればかりか安堵の表情を浮かべる方が多かったですね。エスケープルートの中峠から口深源流、ワサビ峠を通って帰りました。

コヤマノ岳を出発しようとしたところ、抜かしていったはずの若者がきました。どうやら、私達を抜いた後、道に迷っていたみたいです。落ち葉だらけで、道がほとんど見えていません。広い尾根では危ないですね。このまま武奈を目指すということ・・注意を促し、私達は出発

 口深源流の風の当たらないところで、お昼ご飯を食べている時にその3人組が下りてきました。風が強くとてもじゃないが、武奈には登れない・・どうやら、私の判断は正しかったようです。

 無理に行こうと思えば行けます。私もせっかく東京から出てきていただいて、登らせてあげたい、に決まっています。でも、その山がどういう山であるか?一回荒れればどのようになるか?ということを、ガイドは知っているのです。知っていなければガイドはできません。

それを知らず無理して行けば、ひょっとすれば私達も万里の長城やトムラウシと同じ目に遭っていたのかもしれないのです。

遭難するかしないかの瀬戸際は、今回はコヤマノ岳での私一人の判断と事前に打ち合わせていたクラツー側のもって行き方・・があります。

それは、何があってもお客さんを守るという意識。会社が行けと言っても、私が無理だと判断すれば絶対に行きません。その人間に判断を任せてもらえる・・という会社であったこと・・これが生死の境といっても過言ではないのです。

 かくして、坊村に降り立った12名のお客さんは、本当に感謝の気持ちで私を受け入れてくれました。みんな笑顔で「ありがとうございました」と拍手までいただきました。最後に、「皆さんの家族は絶対に武奈ヶ岳に登頂して帰ってきてね」とは言いません、「絶対に無事で帰ってきてね」と言うのですから・・といつもの決めぜりふで、一行とお別れしました。

 ツアー登山の割には、雨模様の空とは裏腹に心はスッキリと晴れていました。「登山は立ち向かう勇気と撤退する勇気が必要です」そのどちらも充実させた登山でした。

 やまやの皆様は、もう一度、万里の長城の遭難のことと、ご自身の危機管理に関して、考えてみてください。

以上

 あ・・ちなみに、12名のお客さん・・60代後半が10名様、70代が2名様でした・・うわ~~~!めっちゃ元気~~!

 やまや山形 山形昌宏

 

2012年11月 5日 (月)

万里の長城 遭難事故に関して

本日、朝にフジテレビから連絡があり、万里の長城で遭難があり、3名の方が亡くなられたこと(その時点では、2名死亡、1名行方不明)を知りました。それが、昔私が請負で勤めておりましたアミューズトラベルの企画と知って、しばし呆然としていました。

今回、亡くなられた3名の方には、心よりご冥福をお祈りします。
3年前、このような悲惨な遭難事故は、二度と起こしたくなく、元アミューズトラベルのガイドとして、シンポジウムなどで内部告発的に真実を訴えたのですが、それが解決しないうちに、また、今度は海外で同じような山岳気象遭難事故が起こってしまいました。なんとも、当時、私が訴えていたことが、活かされていないばかりか、何の教訓にもなっていなかったことに、自分の力の無さが悔やまれます。と同時に、アミューズトラベルに関して呆れ、怒りの気持ちもこみ上げてきます。
なぜ・・なぜ、このような事故が続くのでしょうか?

アミューズトラベルは、私が勤めていました6年ほど前で創業15年を迎える、比較的若い会社です。当時のことは・・純粋に、登山から旅行会社に入った私の中では「登山ツアーというのは非常に危ない形態の登山」というイメージがあったので、旅行から登山に入ったアミューズの仕事をするにあたり、会社相手に、安全面に関して、たくさんの苦言をしたことを覚えています。結局、そのことで、会社にとって、私はマイナス因子になり、クビになったわけですが・・今では、クビになったことを感謝しています。なぜなら、そのことがあったから、私は、純粋な登山者の一人として本当に安全な登山というものを考えることになり、仕事としても成功し、現在があるのですから・・

トムラウシ遭難の後、このことを教訓に危険意識が徹底されている、安全面に関しては十分な配慮がなされている・・とも思っていたのですが、、、

トムラウシと全く同じ形での、今回の万里の長城の遭難・・悲しくて悔しくて・・いたたまれない気持ちです。

いったい、いつになったらこのような悲惨な遭難事故が無くなるのか?

ツアー会社が、今回の事故に関しても、もし「気象が悪くなったので、仕方のないこと、運が悪かった」などと考えているなら、いつまでたっても遭難事故は無くならないでしょう。アミューズトラベルだけではなく、他の旅行会社も肝に命じて、もう一度、襟を正していただきたいものです。

登山は旅行ではありません。
自然を相手にした、命がけのスポーツです。
その世界は素晴らしく、私達を迎えてくれると共に、大自然の懐の中は決して暖かいことばかりでは無いということを忘れてはなりません。
意識の低い者、体力の無いものに関しては、容赦なく牙をむき、その命をいとも簡単に奪います。

安全面に関して、取りすぎるということはありません。
ただ、登山は立ち向かう勇気と撤退する勇気が必要です。
行けたのにも関わらず、行かなかったり、行けなかったのに無理して行ったり・・それは、一般の登山においてはリーダーがパーティ全体の意思を代表して決めることですが、登山ツアーの場合は、その主催の旅行会社、またはそれを請け負ったガイドにその判断が一任されます。そんな中で、ガイドの判断を鈍らせるものが、いわゆる「商業主義」っていうやつです。ここで引き返せば、お金が入らない・・とか、会社に損失を与えてしまえば、次回から仕事が回ってこない・・とか・・お客さん(パーティ全体)の安全面とは、かき離れた「商売だから沸き起こる危険な意識」が起こってきます。それは、旅行会社だけではなく私たちガイドそのものにも共通して言えることですが、その各々のガイドがどのような意識で、危機意識を持って、安全面に考慮して山行を遂行するか・・ということに尽きるのではないでしょうか?

要は、ガイド一人づつ、それが違っていて、そこに来る人(今の場合はお客さん)はその資質をそのガイドまたはその旅行会社が、どのように持っているかどうかを判断しなければならないと思います。ガイドは自分はパーティ全体の命を預かっている・・ということも肝に命じておかなければなりません。

各ガイドさんへ・・そんな、仕事を皆さんはされているのですよ!わかったはりますか?決して、「好き」でできる簡単な仕事ではないんですよ。

私、山形もまだまだ半人前ではありますが、お客さんへの意識に関しては、仕事とは離れた意識で接したいと、常々思っております。
ガイドは「個人ガイドだけでは・・生活ができない」という、いわゆる登山業界の常識にも似たことを、根本から覆そうとしている訳です。
実際、現在はそれのみで、生活ができております。
旅行会社に半分くらいは委託する方が楽に決まっています。でも、私はその方向には背を向いてきました。その私の理念をこれからも通していくべく、少人数で安全面を最大に考慮した素晴らしい山行作りに日夜時間をさいていきます。現在、私を支えていただいている「やまや」の皆様には本当に心より感謝します。ありがとうございます。

登山ツアーを企画している旅行会社の皆さん!
「明日は我が身」かもしれません。
是非、これを機会にもう一度、御社の安全面に対する意識を整理してみてはいかがでしょうか?今、これでいい、と思っていることは、「もっと、最適な方法があるのではないか」と常に自問自答して、甘える自分(会社)と戦っていくことです。
それが、できなければ即刻登山ツアーからは身を引くべきだと思います。

人生は登山と同じです。
手を抜けば、直ちにそのリバウンドはやってきます。
どうか、素晴らしい登山を心がけ、しっかりと大地の上に根を張って行きましょう。
必ずきれいな花が咲くことでしょうね。

いつもお客さんの前でお話しすることですが・・
登山に行く方の家族は、決して「必ず登頂して帰ってきてください」とは言いません。「必ず、無事で帰ってきてください」と言うのですから・・

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